食物アレルギーはなぜ治る?おなかの中で働く「4つの仕組み」を小児科専門医が解説

「卵アレルギーです」と言われたとき、多くの保護者がまず思うのは「この子は一生、卵が食べられないのかな」ということではないでしょうか。
でも、安心してください。赤ちゃんのころに発症した卵・牛乳・小麦のアレルギーは、成長とともに食べられるようになる子がたくさんいます。
ではなぜ、時間がたつと食べられるようになるのでしょうか。この記事では、その背景にある「おなかの中で育つ4つの仕組み」を、小児科専門医がやさしく解説します。仕組みが分かると、日々の除去食や受診の意味が、きっと違って見えてきます。

食物アレルギーは「自然に治る」ことがある

まず知っておいていただきたいのは、乳幼児期に発症した食物アレルギーの多くは、年齢とともに食べられるようになる(=耐性を獲得する)ということです。

食物アレルギー診療ガイドライン2021では、日本の報告として次の数字が示されています。

  • 鶏卵:6歳で約66%が耐性化
  • 牛乳:6歳で約85%が耐性化
  • 小麦:6歳で約66%が耐性化
  • 大豆:3歳までの耐性獲得率は約78%

つまり、乳児期に卵や牛乳のアレルギーがあっても、小学校に上がるころには、多くの子が食べられるようになっているということです。「一生このまま」ではありません。

ただし、すべての食物が同じように治るわけではありません。この点はあとの章でくわしく説明します。

なお、そもそも食物アレルギーでどんな症状が出るのかについては、こちらの記事で解説しています。(👉食物アレルギーの症状

なぜ治るの?

食物アレルギーが自然に治っていく背景には、成長とともに育つ4つの仕組みがあります。

①消化酵素:タンパク質を細かく分解して、アレルゲン性を下げる

②腸のバリア:分解しきれなかった大きなタンパク質を通さない

③分泌型IgA抗体:タンパク質にくっつけてまとめ、便として体の外へ出す

④経口免疫寛容:それでも入ってきたタンパク質を「安全な食べ物」と学習し、反応にブレーキをかける

アレルギーの原因になるのは、食べ物に含まれる「タンパク質」です。この4つは、そのタンパク質が体の中で悪さをしないように、何段階にもわたって守ってくれる関所のようなもの。ひとつずつ見ていきましょう。

仕組み① 消化酵素

口から入った食べ物のタンパク質は、まず胃で胃酸によってほどかれ、小さくなります。
続いて十二指腸から小腸で、膵臓から出るトリプシンやキモトリプシンなどの酵素が働き、さらに小腸の粘膜表面にある酵素が細かく分解して、最終的にはものすごく小さくなって吸収されます。

ここで重要なのが、食物のタンパク質は小さく分解されるほど、アレルゲン性は低くなる、つまりアレルギー反応を起こしにくくなるということです。

赤ちゃんは、胃酸の分泌も消化酵素の量もまだ十分ではありません。そのため、タンパク質が大きなかたまりのまま残りやすい状態です。
でも、年齢と共に「消化する力」が育つことで、タンパク質はより細かく分解されるようになります。

これが、大きくなるとアレルギー反応が起こりにくくなる理由の一つです。

ただし、消化されればアレルゲン性がゼロになるわけではありません。消化に強いタンパク質もあるため、「よく消化されれば絶対に安全」とは言えない点には注意が必要です。

仕組み② 腸のバリア

腸の内側は、ねばねばした粘液の層と、すきまなく並んだ細胞のかべで守られています。この二重の関所が、分解しきれなかった大きなタンパク質が体の中へ入り込むのを防いでいます。一方で、細かく分解された安全な栄養は、きちんと通して吸収します。

赤ちゃんの腸は、このバリアがまだ未熟で、アレルゲン性の強い大きな分子が通り抜けやすい状態です。
しかし、成長とともに粘液や上皮のバリア機能が整い、「大きいものは通さない、小さいものは通す」という働きがしっかりしてきます。

仕組み③ 分泌型IgA抗体

3つ目は、腸の粘膜から分泌される分泌型IgAという抗体です。IgAは、腸の中に入ってきた食べ物のタンパク質や細菌にくっついて、ひとまとめの大きな塊にします。塊になったタンパク質は腸の壁から吸収されにくくなり、そのまま便として体の外へ運び出されます。

赤ちゃんは自分でIgAをつくる力がまだ弱く、母乳から供給されるIgAに助けられています。
年齢と共に、腸が育つにつれて自前のIgAがたくさんつくられるようになり、食べ物のタンパク質を体の中に入れないための守りが強くなっていきます。

仕組み④ 経口免疫寛容

それでも体の中に入ってきたタンパク質に対して働くのが、4つ目の経口免疫寛容です。
口から入ってきた食べ物に対して、免疫が「これは敵ではない、安全な栄養だ」と学習し、制御性T細胞というブレーキ役の細胞をつくって、アレルギー反応が起こらないように抑えてくれます。

ここがとても大切なポイントなのですが、経口免疫寛容は「食べること」で育つ仕組みです。完全に除去し続けているだけでは、この学習は進みません。だからこそ、症状が出ない範囲で食べ続けることが、治療として意味を持つのです。

経口免疫寛容と、安全に食べられる量の決め方については、こちらの記事でくわしく解説しています。(👉食物アレルギーは「食べた方が治る」?経口免疫寛容と“食べられる量”を小児科医が解説

3つは「年齢とともに」、1つは「食べることで」育つ

ここまでの4つを整理すると、次のようになります。

①消化酵素・②腸のバリア・③分泌型IgA = 年齢とともに自然に育つ

④経口免疫寛容 = 実際に食べることで育つ

時間がたてば①〜③は勝手に育っていきますが、④だけは「食べる」という行動が必要です。だからこそ、主治医の指示のもとで、症状が出ない量を継続して食べていくことが、治るための近道になります。

どのくらいの量なら安全に食べられるかは、見た目や血液検査の数値だけでは決められません。医療機関で実際に食べて確認する食物経口負荷試験で判断します。自己判断で量を増やすことは絶対に避けてください。

治りやすい食べ物、治りにくい食べ物があります

ここまで「治る」話をしてきましたが、食物によって耐性を獲得しやすさは大きく違います。

比較的治りやすい:鶏卵・牛乳・小麦・大豆

治りにくいとされる:ピーナッツ(耐性化は約20%とする報告が多い)、クルミやカシューナッツなどの木の実類、ゴマ、甲殻類・軟体類・貝類

「うちの子はナッツだから治らないの?」と落ち込む必要はありません。治りにくいとされる食物でも、一定数は耐性を獲得しますし、誤食時に備えた準備をしておけば、生活の幅は十分に広げられます。大切なのは、食物ごとの見通しを主治医と共有しておくことです。

保護者が気をつけたい3つのこと

1. 自己判断で「食べさせる」「やめる」をしない

よかれと思って家庭で少しずつ食べさせることは、思わぬ強い症状につながる危険があります。反対に、必要以上に除去を続けると、④の経口免疫寛容が育つ機会を失ってしまいます。どちらも主治医と相談しながら進めてください。

2. 血液検査の数値だけで判断しない

血液検査(特異的IgE抗体)の値は、あくまで参考の一つです。数値が高くても食べられる子はいますし、数値が下がっても症状が出ることがあります。検査結果の考え方については、こちらの記事で解説しています。(👉血液検査で陽性=食物アレルギーではありません!

3. 皮膚をきれいに保つことも「治る」を助けます

食物アレルギーは、湿疹などで荒れた皮膚から食べ物のタンパク質が入り込むことで発症・悪化しやすいことが分かっています。口から食べて寛容を育てながら、皮膚からの侵入は防ぐ。この2点が大切です。(👉食物アレルギーの原因は皮膚の湿疹?

また、万一の誤食に備えて、症状が出たときの対応やエピペンの使いどきも確認しておきましょう。(👉エピペン(ネフィー)はいつ打つ?打つべき13の症状と、迷ったときの考え方

よくある質問

Q. 完全に除去していれば、そのうち治りますか?

A. ①〜③は年齢とともに育ちますが、④の経口免疫寛容は食べることで育つ仕組みです。必要以上の完全除去は、治るチャンスを遠ざけてしまう可能性があります。現在の食物アレルギー診療では「必要最小限の除去」が原則です。

Q. 加熱した卵なら食べられるのはなぜですか?

A. 加熱によってタンパク質の立体的な形がくずれ、免疫が原因として認識しにくくなるためです。しっかり加熱した卵は食べられても、半熟や生の卵では症状が出る、ということが起こります。これも「形がくずれるとアレルゲン性が下がる」という同じ原理です。

Q. 治ったあとは、もう食べ続けなくても大丈夫ですか?

A. 耐性を獲得したあとも、長期間まったく食べない期間が続くと、再び症状が出ることがあります。主治医の指示に従って、日常的に食べ続けることをおすすめします。

まとめ

・乳児期に発症した鶏卵・牛乳・小麦のアレルギーは、6歳ごろまでに多くの子が食べられるようになる

・その背景には、①消化酵素②腸のバリア③分泌型IgA④経口免疫寛容という4つの仕組みがある

・①〜③は年齢とともに自然に育つが、④は「食べること」でしか育たない

・安全に食べられる量は自己判断せず、負荷試験など主治医の指導のもとで確認する

「なぜ治るのか」が分かると、毎日の除去食や通院の意味が見えてきます。焦らず、お子さんのおなかの成長を、主治医と一緒に見守っていきましょう。

「うちの子の場合はどうなの?」と思ったら

ここまで、食物アレルギーが治っていく仕組みを解説してきました。ただ、実際の進め方は、原因となる食物・症状の出方・お子さんの年齢によって一人ひとり違います。「記事の内容は分かったけれど、うちの子の場合はどうなんだろう」と感じた方も多いのではないでしょうか。

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参考文献

・日本小児アレルギー学会「食物アレルギー診療ガイドライン2021」ダイジェスト版 第12章 食品ごとの各論 https://www.jspaci.jp/guide2021/jgfa2021_12.html

・海老澤元宏「ガイドラインのワンポイント解説 食物アレルギー診療ガイドライン2021」アレルギー 71巻10号 https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/71/10/71_1195/_pdf/-char/ja

・南野昌信「経口免疫寛容と腸内細菌叢」アレルギー 56巻6号 https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/56/6/56_KJ00004652105/_pdf

・理化学研究所プレスリリース「食物アレルギーの画期的な治療法につながる経口免疫寛容の仕組みを発見」 https://www.riken.jp/press/2010/20100930_2/

※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。お子さんの症状や体質、基礎疾患によって適切な対応は異なります。食べられる量の判断や食物経口負荷試験の実施は、必ず医療機関で行ってください。気になる症状があるときや対応に迷うときは、自己判断せず、必ずかかりつけの医師・医療機関にご相談ください。