「喘息って、なんで元気なときも毎日薬が必要なんですか?」
「咳もしてないし、もう治ったんじゃないですか?」
外来でよく聞かれます。もっともな疑問だと思います。
お子さんは元気に走り回っている。咳もしていない。それなのに、毎日薬を続けさせる。納得しにくいのは当然です。
理由は、喘息という病気の仕組みにあります。
この記事を読み終わるころには、「だから毎日必要なのか」と納得できるはずです。
喘息は、発作のときだけの病気ではありません
いちばん大事なことから書きます。
咳やゼーゼーといった症状(発作)が出ていないときも、気管支の中では炎症が続いています。
原因は、ずっと続いている炎症のほうにあります。
だから喘息の治療は、発作が出ていないときが本番になります。
イメージは「気管支のアトピー」
炎症といっても、ぴんとこないと思います。アトピー性皮膚炎を思い浮かべてください。
アトピーは、体質のせいで皮膚が赤くなって、かゆくなる病気です。ひじの内側や首が赤くカサカサして、思わずかいてしまいます。

▲アトピー性皮膚炎。首やひじの内側の皮膚が赤くなって、かゆくなる
喘息は、それと同じことが気管支の内側で起きています。
健康な気管支の内側は、つるっとした薄いピンク色です。一方、喘息の子の気管支は、赤くてムズムズしています。

▲ 左=正常な気管支 / 右=喘息の気管支
普段は、症状が出ません
気管支の中が赤くても、普段は元気です。走れるし、よく食べるし、見た目は何ともありません。
だから「もう治った」と思ってしまいます。
でも、症状がなくても、赤い部分(気管支の炎症)はしっかりと残っています。
喘息は、症状が自然に消えたり、薬で消えたりする病気です。症状が出ていないことは、治った証拠にはなりません。
風邪をひくと、一気に狭くなる。これが発作です
赤くなっている気管支に、風邪のウイルスが入るとどうなるか。
もともと敏感になっているので、反応が強く出ます。粘膜が腫れて、空気の通り道が細くなります。
空気の通り道が狭くなるので呼吸が苦しくなります。
また、細い管を空気が無理に通るので、ヒューヒュー、ゼーゼーと音が出ます。
これが喘息発作の状態です。

▲ 風邪のウイルスが入る → 粘膜が腫れて通り道が細くなる → ゼーゼーして苦しくなる
なお、風邪に抗生剤は効きません。抗生剤で発作を防ぐこともできません(👉風邪に抗生剤は効かない?)。
発作は治る。でも赤みは残ります
発作が起きても、多くは1〜2週間ほどで症状が落ち着きます。
ここで「治った」と思いがちです。
でも、もともと気管支の中は赤い状態でした。発作は、その上に腫れが乗った状態です。腫れが引いても、赤みは残ったままです。
赤みが残っているかぎり、次に風邪をひけば、また同じように発作が起こります
これが、風邪を引くたびにゼーゼーをくり返す理由です。看病のしかたが悪いわけでも、体が弱いわけでもありません。

▲ 普段の状態と発作を行ったり来たりして、くり返す
だから、元気なときの薬が大事です
くり返さないためには、発作を止めるだけでは足りません。もとにある赤みを減らすしかありません。
そのための薬が、飲み薬や吸入薬です。元気なときも毎日、数ヶ月〜数年間続けて、炎症(気管支の赤い部分)をきれいにしていきます。
炎症がおさまると、気管支が刺激に反応しにくくなります。同じように風邪をひいても、発作を起こさずに済みます。
元気なのに薬を続けるのは、正直めんどうです。でも、その元気なときに炎症はくすぶっています。そこを抑えるのが喘息の治療です。

▲ 飲み薬(粉薬)と吸入薬。どちらの子もいます

▲ 毎日続けると、赤みがおさまってくる
使うお薬の種類や量は、発作の回数や程度で決まるので、主治医と相談してください。
くり返すと、元に戻らなくなることがあります
毎日の治療を怠って、長年の間炎症が続いたり発作をくり返したりすると、気管支の壁がどんどん厚く硬くなり、元に戻らなくなります。(専門用語でリモデリングといいます)
こうなると現代の医学では元に戻せません。
こうなると発作が起きていない時でも息が苦しく、ゼーゼーしてしまいます。
発作が起きてから対処するより、起こさないほうがいい。最大の理由がここにあります。

▲ 発作をくり返すうちに、気管支の壁がだんだん厚く硬くなり、空気の通り道が狭くなっていく(リモデリング)
風邪のほかにも、きっかけはあります
- 激しい運動
- ダニ、ハウスダスト
- ペットの毛
- タバコの煙(加熱式も含みます)
- 天気や気圧の変化
- 強いにおい、線香や花火の煙
薬と同じくらい、環境を整えることも効きます。寝具のダニ対策と、家でタバコを吸わないこと。この2つは今日からできます。
こんなときは、すぐ受診してください
- 苦しくて横になれない(座るほうが楽そう)
- 言葉が途切れる。単語でしか話せない
- 肩で息をする。小鼻がぴくぴく動く
- 肋骨の間やのどの下が、息のたびにペコペコへこむ
- 唇や爪、顔色が青白い
- ぐったりして、反応が鈍い
- いつもの発作止めが効かない、またはすぐ戻る
唇の色が悪いとき、ぐったりしているときは急いでください。夜間でも休日でも構いません。
よくある質問
Q. 発作が出ていないのに、毎日薬を使うんですか。
A. いちばん多い質問です。発作が出ていないときも炎症は続いていて、それが次の発作の原因だからです。発作が出てから薬を使うのは、火事が起きてから消すようなものです。毎日の薬は、燃えやすい状態そのものを変える作業です。
Q. 吸入ステロイドを長く続けると、身長が伸びなくなりませんか。
A. 正直にお答えします。ある程度の量を半年以上続けると、大人になったときの身長が約1cm低くなるという報告があります。一方で、発作をくり返して呼吸機能が下がるリスクのほうがずっと大きいと考えられています。症状が落ち着けば、量を減らしたりやめたりできます。心配なら主治医に伝えてください。量や薬の種類を調整できます。
Q. 喘息と言われましたが、毎日の薬は出ていません。大丈夫ですか。
A. 喘息の治療は、発作の回数や程度で段階が決まります。重症度が低ければ、発作のときだけ対応することもあります。ただし発作が増えた、夜中や明け方に咳き込む、風邪のたびにゼーゼーする、という場合は相談してください。
Q. 風邪をひくとゼーゼーします。これは喘息ですか。
A. ゼーゼーする=喘息とは限りません。とくに乳幼児には、風邪のたびに一時的にゼーゼーして、大きくなると出なくなる子もいます。喘息かどうかは、くり返しているか、いつ出るか、アレルギー体質があるか、吸入薬が効くかなどを合わせて判断します。ゼーゼーしている「そのとき」に受診して、呼吸の音を聞いてもらうのがいちばん確実です。
まとめ
- 喘息は、発作のときだけの病気ではありません。普段から気管支の中で炎症が続いています
- イメージは「気管支のアトピー」。皮膚で起きていることが、気管支の内側で起きています
- それでも普段は症状が出ません。だから「治った」と思ってしまいます
- 風邪のウイルスが入ると粘膜が腫れて、気管支が狭くなる。これが発作です
- 発作は1〜2週間ほどで治りますが、赤みは残ります。だから、また風邪をひくとくり返します
- だから、元気なときに薬を続けて、炎症そのものを抑えておくことが大事です
- くり返すと気管支が硬くなり、元に戻らなくなることがあります
「なんでうちの子ばかり」と自分を責める方がいます。でも、看病のしかたのせいではありません。気管支の中がそういう状態だから、それだけです。
仕組みが分かれば、やることははっきりします。
元気なうちに、気管支をきれいにしておく。それだけです。
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参考文献
・一般社団法人日本小児アレルギー学会『小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2023』(JPGL2023)
・小児慢性特定疾病情報センター「気管支喘息 概要」
・Johnston SL, Pattemore PK, Sanderson G, et al. Community study of role of viral infections in exacerbations of asthma in 9-11 year old children. BMJ. 1995;310(6989):1225-1229.
・Yilmaz O, Bakirtas A, Ertoy Karagol HI, et al. Allergic rhinitis may impact the recovery of pulmonary function tests after moderate/severe asthma exacerbation in children. Allergy. 2014;69(5):652-657.
・Global Initiative for Asthma (GINA). Global Strategy for Asthma Management and Prevention, 2025 update.
・独立行政法人環境再生保全機構(ERCA)「ぜん息ってなに?〈症状や治療法〉」小児ぜん息基礎知識
・一般社団法人日本アレルギー学会「小児のぜん息/Q&A」
※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。お子さんの症状や体質、持病によって適切な対応は異なります。薬の開始・変更・中止を自己判断で行わず、気になる症状があるときや対応に迷うときは、必ずかかりつけの医師にご相談ください。呼吸が苦しそうなとき、唇の色が悪いとき、ぐったりしているときは、急いで受診してください。